2024/2/1
初めての場所に行くというので、よく分からないけど準備をした。ウトロに流氷が来てから初めて国道を走る。高原の家から少し見えていたけれど、間近で見るとすごい量だなと思う。雪の残る道を走りながら、横目で白い海を見た。
寒くて硫黄の匂いがする元小学校で作業をして、昼は町で定食を食べた。お腹いっぱいになって外に出ると、嘘みたいに吹雪いていて、作業場まで戻る道は一面真っ白だった。畑から流れてきた小さな雪山にハンドルをとられながら戻る。
夕方まで作業をすると、少し調子の悪い車で家に帰った。家に着くと、1ヶ月くらい家を空けていた人が帰ってきていて、犬も一緒にいた。
2024/2/2
車の調子を見てもらうために斜里に行った。久々に1人でいると思った。運転中、電話がきて来年の話をする。
ダイハツの店に行くと、陽気で優しい夫婦が面倒を見てくれて、1時間くらい会話をした。その後、また人に会いにって、その後も人に会った。暗くなると帰って、家の人の誕生日を祝った。
2024/2/3
朝、テーブルクロスを変えて、洗った。白い方が好き。犬は、徐々に私に慣れてきて、近くを通っても目を閉じたまま眠っている。夜、ちょっかいを出してくれたので、ちゃんと頭を撫でることができた。油揚げみたいな耳の色をしている。
2024/2/4
朝から作業場に行って、作業をした。少しずつ慣れてきたが、指先を少しと爪をがっつり削ってしまって悲しい。昼ごはんを食べながら、噛んでいるものが爪や指先になることを意識した。
夕方、1人で斜里温泉に行って、アジトで湯豆腐を食べた。
2024/2/5
午前、施工中の現場に行って、大工さんと家主さんといろいろな話をした。古い家、ものへの触れ方みたいなものを教えてもらう。すごく好きだと思った。また春に色々教えてもらう約束をして、丸々した羊とふわふわの鶏を触って帰った。
好きな喫茶店でお昼を食べて、午後は作業をした。休憩中、室内にいると大きなもふもふの犬が外に見えた。わんわんだーと言っていると、犬がこちらに気づいて、深い雪に埋まりながら窓に向かって進んできた。ジョニーというらしい。多分、笑顔だった。
夜は、斜里小学校で行われている町民のバレーボール大会の見学に行った。寒い町の体育館に熱気がこもっていて、斜里ねぷたを初めて見たくらいに嬉しかった。
休憩中、ボールを借りて触っていると、めいさんの知り合いのご厚意で役場チームとして1試合出させてもらった。嬉しかったけど、ボールに触るのは4年振りくらいだったので緊張した。
相手は漁師チームで、みんなサーブが強く、打撃も怖かった。1セットも取れないで終わったけれど、スポーツが好きだと思い出せてよかった。でも、あまり勝敗に興味がない。
2024/2/6
朝起きて、たくさん使った体だと思ったけど、調子の良い疲労感だった。適当に調べた賃貸を見つけて、内見の予約をする。
作業場に行く途中、木々が冷たい空気に白い氷をまとっていて、町がずっと光っていた。よく曇っている斜里岳も凹凸がよく見える。深い雪に埋もれた山の木々のことを思った。
作業をしていると、またジョニーが走ってきて、こちらも窓から身を乗りだすと、黒い鼻先に触れることができた。ジョニーはそれで満足したらしく、大きい体を揺らしながら雪の中を帰っていった。
夜はウトロに帰って、とろろごはんととろろポタージュ、ネギ焼き、いくらを食べて嬉しかった。
2024/2/7
朝にウトロを出て、斜里で人に会ってから、川湯の方に行った。車の中で昔の歌を歌いながら、雪道を走る。
初めて、屈斜路湖の湖岸から湧き出る野湯に入った。石で囲われているお湯は湖に繋がっていて、そこ以外は全部凍っている。たくさんの藻が体にくっついて、ぬめぬめした。少し生臭い。
出るときはすごく寒かったけど、何となく体が温まったような気がして、ただの藻の池じゃなかったのだと思った。
その後は川湯でスパイシーなご飯を食べて、食べものがすごく美味しかった。夜、やりたいことと今後数年間の話をする。ちょっと体が分裂したけれど、多分大丈夫だと思う。
2024/2/8
1日中、名札のやすりがけをした。指先や体全体が、高速回転するやすりに慣れてきている。削れた指の痛さもどうでもよくなった。
昼、あまり話さない人と一緒にラーメン屋に行って、ラーメンを食べた。店や車の中で少しずつ話すけれど、あまり一気に話したいと思わない。ゆっくりで十分。海別岳が白く光っている。
2024/2/9
やすりがけをして、昼は一軒家の内見に行った。不動産はあまり歳の変わらない人で、接しやすかった。2階建ての4LDK。汚いけれど、綺麗になった部屋を想像することができた。
夜は、ご老人の家に行ってご飯を食べた。前よりもちゃんと話すことができて良かった。
2024/2/10
朝がとても弱くなった。全然起きられない。明日は土塗り大会。その準備として、アジトの片付けとご飯の用意をする。人のために料理をするのは、照れるけど好き。ちゃんと自分の場所を持ちたいという気持ちが強くなっている。
2024/2/11
朝8時30分から人が来て、急いで準備をする。土塗りを黙々として、お昼になるともっと人が来て、カレーを食べながら雑談をした。食べた後は、おしゃべりをしながら土塗りを再開する。色々な話をして、おやつを食べた後は昭和歌謡を歌いながら土塗りをした。人、すごい!
2024/2/12
休み。ラルズの入り口で小さいたい焼きの形をしたお菓子を買った。美味しい。
2024/2/13
いつ死んでもいいと思って布団から出るのが億劫だったけど、体を直立にしたら生きるという気持ちになった。午後から役場に行って、顔は知っていたけれど、ちゃんと話したことのない人と話して、夕方まで一緒にいた。熱意のある人と秘めている人、よく分からない人と会って、もっと知りたいと思う人がいた。
月日、お金、場所、色々と悩むことはあるけれど、ほとんど確信に近い直感をもっている。順番をつけて、進めていくと、いつの間にかどうにかなっているのだろう。
何かが変わるときは、いつもよく分からない状態のまま勢いで進めてしまう。それが、ちゃんと説明する人がいて、理由をちゃんと言わなくてはいけない環境にいるのは、人間として少し責任を感じる。
自分の活動の流れが、少しずつ明確に変わっている。けれど、元のところは何も変わっていない。
2024/2/14
名札のやすりがけがとりあえず終わった。何も期待していない人とは、どうあっても傷つかないのだと思った。傷つかないためにそうしているかもしれない。だから、一緒にいることができるのかもしれないけれど、その心持ちは疲れるのだと1人になったときに気がついた。
傷つくときは、大体期待しているときだと思う。でも、きっといらないものではないから、ちゃんとそういうものだと知っていたい。
2024/2/15
朝、友達の家に行って、カーリングをしに北見へ行った。少し気弱そうな先生に習いながら、氷の上を滑る。なぜか上手にできて、友達に嫉妬された。低い姿勢と体ののせ方。冷たい空気が気持ちよくて、体がしっかりしたような気がした。運動はいいものだと思うけど、今の生活では続けられない。運動のある生活をしたい。
帰り道にスタバで多分好きなやつを買って、暗くなってきた雪道を見た。知らない温泉に入る。天井がドームみたいに高くてびっくりした。人と話していると気付かない間にのぼせていたようで、脱衣所に入った瞬間にすごく気持ちが悪くなった。
椅子に座って目をつぶっていると、すごく楽になる瞬間があって、目を覚ましたら裸の自分が裸の4人ぐらいに囲まれていた。頭が痛いので、頭から床に落ちたらしい。1人は靴下だけを履いている。救急車呼ぶ?と聞こえて、必死に大丈夫ですと言った。
施設の人が氷とたくさんのタオルを持ってきてくれて、寝かせられる。せっかくなので少し寝て、起き上がると裸だった人はみんな服を着ていて、誰にお礼を言えばいいか分からなかった。
車で休みながら、友達の家でジンギスカンを食べる。久々に食べたので美味しかった。この肉と野菜のおかげで体が少し丈夫になった気がする。
夜、死ぬときは案外楽で、気持ちがいいのだろうと思った。
2024/2/16
朝帰って、仕事をする。ざっくり予定を話して、ご飯を食べた。人といるのは大変だと思う。
2024/2/17
朝、早く起きて斜里に行って、ゆめホールで鹿笛をつくるワークショップに参加した。用意された木に書かれた鉛筆の形に削って、角をとる。水で伸ばしたカスベの皮の白い皮をボンドでくっつけて、最後に鹿の腱を巻いた。
11時に抜けて、斜里駅に人を迎えに行く。久々に会った人を軽トラに乗せて、原生花園の流氷を見に行った。車に乗りながら何度も流氷を見ていたけれど、ここに来るのは今年初めてだった。
近くで流氷を見ても、白くて広いと思うだけで寒い。車で走ったり、高原の狭い視界から見える流氷が好き。久々の越川温泉は、地元の人がいて緊張した。
2024/2/18
たまに好きじゃないものに触れないと、好きなものが分からなくなることを思い出した。好きな場所に行って安心する。
犬はいつの間にか、当たり前のように尻をくっつけてきて、不安そうな目をしなくなった。でも、飼い主がいないと不安定になるようで、ちょっとした動きで警戒される。
めいさんに、ハスキーは遊牧民族の飼い犬で、はぐれて飼い主を探すより新しい飼い主に懐いた方が楽だと学んだので、飼い主のことを覚えられないと教えてもらってから、犬を個体としてではなく、生きものとして見れるようになった。
2024/2/19
アッシュのカラーシャンプーが届いて、髪を洗いながら軽い風呂掃除をした。髪の色が、多分良いような気がする。爪とか髪の毛にあまり執着はないけれど、きれいだったら嬉しいな。
2024/2/20
スプーンを彫った。好きだなと思った。
2024/2/21
2人が作品を搬入する手伝いをした。久しぶりに家具などの搬入の現場を見て、ちょっと興奮する。午前中は紙をたくさん印刷して、午後は全ての本を開梱してチェックをしながら並べた。
思ったよりも疲れて、22時過ぎに帰って寝た。
2024/2/22
朝早く起きて家事をして、家を出た。ひみつきちに行って、初めて会った人の手伝いをする。少し苦手な作業で下手にやってしまった。雑談をしながらコーヒーを飲んで、羅臼の町の話を聞く。
昼、母から連絡がきて、祖母の入院している病院から、会わせたい人がいるなら今のうちに、と言われたらしい。作業の集中力がなくなったので、夜の飛行機をとり、後からきた人に手伝いをパスした。
財布と携帯、もらったパン2袋、もらった弁当、古本を持って女満別空港に行く。白い雪道が照らされて、森の中を走ると不思議な気持ちになった。まっすぐな国道を走りながら妙に気持ちのいい感じがしたけれど、すごくだめなやつだった。
23時に空港に着いて上野に行き、酒を飲んだ。始発まで待つ。自傷行為だと思った。
2024/2/23
朝、栃木についてタクシーで家まで帰る。久々に帰った家はすごく綺麗で、片付いた空き家みたいだった。消耗品や服がないと、家は急に生活感をなくす。自分の知っている場所ではないような気がして、少し困った。
シャワーを浴びて実家に行く。朝ごはんを食べて病院に向かった。気絶したように眠って、祖母に会う。大きい酸素マスクをつけて、入れ歯のない口で何かを頑張って言っていた。
濁ったきれいな目を見るたびに、なぜか涙が出る。頑張って、ありがとうも何も言えないで帰る。夜、どうしても人の顔が見たくなったので、東京に行った。ここでも何を話したらいいか分からない。
2024/2/24
人類がずっと抱えているそれらのことが、この数日、実体験として身におりてきて、たくさんの感情、肉体の行きどころのなさを知った。自分が人間として生きている限り、ずっと内側にも外側にもあることだと思う。
帰る電車で、あたたかい日差しと見慣れたけど久々に見た雪のない風景を見て、昨日から着ている服も心地良かった。
午後、1人で祖母に会いに行くと、昨日よりも意識があやしかった。死ぬのかなと思って、泣きながら手を握っていると、30分経ったのでと追い出された。強そうな看護師さんが、祖母に向かって、30分も大変だったね疲れたね、と言ったのを聞いて、あれ、そういう感じ?と、涙もすっこんだ。
確かに泣いてる女がずっと隣にいて、眠りたいのに起こされたら嫌だ。人の生死は素人には分からない。これで生きている祖母に会うのは最後だと思い、明日の朝一に飛ぶ飛行機を買った。
2024/2/25
羽田空港に、肩かけポシェットと野菜が2つ入ったビニール袋を持って行く。上野で交換した本はちょっとあれで元気になった。
空港に着く。ライターを3つ持っていた。長崎、女満別、沖縄の順でゲートがある。飛行機までバスに乗って、側の女性たちが見た瞬間に、ちっさ!と叫んだ飛行機に乗った。
久しぶりの窓席。もう窓際じゃなくてもいいと思っていたけど、動いている外が見えると嬉しい。飛行機が安定するまで眠っていると、隣の人と寄り添って寝ていた。おもしろいくらいどうでもよかった。
女満別に着いて、車に乗ってウトロまで帰る。雪と流氷があってびっくりした。夜は人がアジトに集まって、料理をたくさん食べながらお酒を飲んだ。暖炉に雪、斜里のさまざまな事情を聞いて楽しかった。
2024/2/26
朝は起きれず、店でカレー南蛮そばをちんたら食べた。ウトロに帰り、寝る。車で眠って起こされた人は、煙草を吸いながら見ていた夢の話をした。
2024/2/27
朝、書類を出す。昼からお客さんと会って、一緒にごはんを食べた。とてもよく話す人で、不思議な感じだなとじっと顔を見た。
夜もその人に会って、初めて行った人の家で蒸し野菜、桜ますの燻製、パン、チーズ、じゃがいも、梅ソーダを食べた。最後はチョコとせんべい、コーヒー、でんぷん団子を食べる。すごくおいしかった。
白くて軽い猫に触る。適当でたくましい人の家に、この猫がいることが嬉しかった。グリーン温泉に行って、去年お世話になった人と久しぶりに会う。背中を洗ってもらった。くもった鏡を見て、ピアス開けようと思った。
2024/2/28
作業日。疲れるけど、気持ちのいい作業だと思った。ラジオを聞いている。時勢ではない、その人が最近体験した話が好き。
2024/2/29
朝起きて、暖炉に火をつけることがどちらかの仕事。コーヒーを飲んで、作業をして、薪を電鋸で切った。木によって違う匂い。昼過ぎに人がきて、久しぶりと話をした。友達との2人旅は楽しそうに見える。
旅行でここに来ることと、日々を過ごすためにここにいることは全然違うことを思い出した。そのためにはやることがたくさんあるけれど、連絡がこなくて進められない。
疲れている人に飯を食わせて、一緒に越川温泉に行った。道中、タイで自転車に乗っていると野犬数匹に追われた話をした。熱い湯に入りながら、窓の縁であつくなった氷を触る。
帰ってお酒を飲みながら、ピアスを両耳開けてもらった。3回目。今までの2回は、服を勢いよく脱いだときに飛んで膿んで閉じた。