top of page

2023年9月







2023/9/1

zineを2冊作る。久しぶりに色々な紙に触れて嬉しい。この紙だとこうなるだろうな、という手の感覚がずっと先の時間まで続いている感じが好き。あと、zine用のイラストを描いた。描きたいと思う頻度は少ないけど、案外描けた。記憶の中の線を探すのは楽しい。






2023/9/3


毎日暑い気がする。夏服っぽい夏服をいつまで着て良いのか分からない。冷房のせいでイカれた自律神経を感じながら、洗濯をすると美容院の時間だった。いつもの人に前髪だけ切ってもらう。眉毛に被せてと言ったけど、ばっちり眉毛が見えている。


特にすることがないと思ってノートを開くと、やることリストがたくさんあった。ああと思って一度昼寝をし、作業をする。窓を開けると気持ち良い風。自分の体調に合った音楽を選べるときは嬉しい。今日もイラストを描いた。ペン画は少しの逃げだけど、力強いなと思う。

夜、森の中から動物の気配がした。昔は大抵猪だったが、長い脚が木を踏む音がして鹿だと思った。何も見えないけど、音でその動物の高さが分かるのは少し良かった。




2023/9/4


夜に強くなって朝に弱くなった。昼頃から動けることができ、掃除、洗濯、衣替えをした。冷蔵庫には、ジャガイモとスイカとメロンしかない。


夕方から久しぶりにコメダに行って作業をした。コメダ好き。

「私はエマちゃん!こっちはひろみちゃん、こっちはばあば!そしたら行くよ!抱っこして!靴履かせないで!」テンション爆上がり少女がいて、すごい良かった。骨付き肉が食べたい。




2023/9/5


登戸と新百合ヶ丘の間の景色はいつも綺麗だと思うけど、近づきたい感じではない。遠くにあって、自分とは関係がないものに見える。整備され過ぎた街と川は、何をしたらいいか分からない。草が茂って、動物の気配がするようなところが好き。


山の話。家の裏山に入ることを苦手だと思っていたが、それは昔の体を思い出しているからだと気がついた。小さなバネのような体で斜面を駆けていた感覚がまだ体の中にある。今の体でそうしようと思っても苦しいので、山は苦しいということだけが残っていた。


しかし、最近、諦めて山の少し入ったところで座り込むと、無気力でも山にいていいのだなと思い、裏山があまり苦手ではなくなった。山はずっと動いて、音がした。ひとつずつ目で追っていると、たくさんのものが見えておかしくなりそうだったのでやめた。遠くの木々と笹藪を見た。山の中、生きているとか死んでいるがごっちゃになって、そういう区分は必要ないのだと思い出す。


人間は生死を結構分けている。葬式の具合も、エジプトのまちづくりも、あちら側とこちら側があるみたいに扱う。人間は山のように曖昧な具合ではいられないので、ある程度の線引きが必要なのだと思った。生きていることも死んでいることもそんな変わらない、と誰かが言っていた言葉をずっと考えている。


そうでもあるけどそうでもない。最近は人の死を身近に感じていて、少し引っ張られそうになるのを空元気で耐えている。引っ張られてもいいのだろうけど、それは辛いことなので、その辛さよりは自分のことを頑張りたい。しかし、それで身近な人を蔑ろにしないように気をつける。





2023/9/6


朝、買ったパンを食べて珈琲を飲んだ。クロワッサンの層がすごいので結構こぼす。窓際でゆっくり人の話を聞いた。午後からは初めての人の家に行って、そのまま5時間以上居座った。窓があって、体を斜めにできて、鳥がいて、食べ物と飲み物がたくさんあった。夜はペンネとスープ、サラダ、グレープフルーツなどを食べた。ビールを飲んだけど飲み足りなかったので赤ワインを飲んでみると丁度良かった。




2023/9/7


ゆっくり起きて、パン、スクランブルエッグ、昨日の残りを食べた。昼寄りの朝食と言ったが、結局夜まで何も食べなかった。電車のドンという揺れ。昼、上野の美術館に行って知らない人の展示をみた。好きなのかは分からないけど、今見れて良かったという感じだった。自分にとって必要なものを見つける感覚は結構持っていると思う。



2023/9/8


朝、久しぶりに暑苦しさではなく、雨の音で目が覚めた。涼しい。夜まで横になりながら作業を続ける。一歩も外に出なかった。storesでショップを開いてみたが、全く連絡を取っていなかった昔の友人が買ってくれていて、びっくりして声が出た。スイカを食べて眠る。




2023/9/9


古道具屋さんのところに行って、色々話をした。多分、自分はこの人よりも違う感じで古物に興味がある気がする。それがよく分からないので、家で手を動かしてみる。作家なのかもしれない。amazonでマキタのサンダーを買った。集塵機能付き!嬉しい。




2023/9/10


午前中、定まらない体で買い出しをし、午後から模型を作り始めた。1日で大体できてびっくりした。形や木の組み方ってパターンだな。制作に集中すると、脳の一部の動きがとても鈍くなる。何を食べても大して影響を受けている気がしないし、周りから受け取る情報量もとても限定的になる。これを良い状態といえるのか怪しいが、こうならないと何もつくれない。




2023/9/11


何度も確認をして頭がおかしくなってきたので、人に写真を送った。私は明日から熊本に行くらしい。




2023/9/12

午前中、頼んでいた紙が200枚きた。昨日の模型の修正をする。連日、脳の具合が模型作業ととてもリンクしていて、体がすごい状態になっていた。たまに鏡に自分の体がうつり、こんな体してたのかと驚く。座って、意識が手と頭に傾いているからそうなるのだと思う。


制作以外のことは手癖でやっていて、そこには心が降りてこない。車を運転するのも、食べ物を口に運ぶのも何となくやっている。ノコギリやカッターで切った指先が髪の毛に引っかかる度に少し嫌な気持ちになった。


20時になり家を出て、最寄りの駅から空港へ向かった。早朝の格安飛行機を予約したので、今日は空港で眠る。移動のときは、いつも数週間前の自分に操られる気分だ。今は家を出ないで、ゆっくりベットで眠りたい。


足の間のリュックには、乾きやすい適当な着替えとパソコン、司馬遼太郎のエッセイ、衛生用品が入っている。電車の中、音楽を聞きながら意識が曖昧になるのが好き。





2023/9/13


0時、成田空港に着く。第3ターミナルに行ったが、若い人がたくさんいたので第2ターミナルに戻ってスタバの前のベンチに寝転んだ。周りには同じように寝ている人がいる。その人たちを見習って、靴下などを入れている袋を枕にすると快適になった。明るい空港で、あまり抵抗なく横になれる自分を嬉しく思う。


2時になるとお腹が減ったので、吉野家でねぎ塩豚丼を食べる、美味しい気がした。すぐに戻って横になる。4時になると、外国の子供が何かを叫びながら泣き始めた。


6時前に保安検査場を通り、整備されている飛行機を見た。その近くで普通の車が走っているが、飛行機の本当の大きさが分からない。朝の黄色い光が綺麗だった。機体についた小さな光を見つけて、ここ、そこ、人、もの、色々なことが曖昧になったような気がした。


久々の飛行機。寝不足で疲れた体をLCCの小さな席に埋めると、隣の人との距離が近くてうんざりした。音楽で耳を塞ぎながら、何も考えられないまま熊本に着く。この移動から帰ってきた後の準備は色々したが、この移動の準備はほとんどできていなかった。




待ち合わせの時間まで暇だったので、少し文章を書いた後、空港のバスで市内まで移動した。前にも行ったことのある水前寺公園前で降り、青く澄んだ水路に沿って歩いた。


去年の6月、南阿蘇で見た白川水源の色に似ている。バスで移動した道の下か横を流れている水のことを思った。山、遠い昔の噴火、カルデラ、年に1度の野焼き。


庭園は特に好きでも嫌いでもなかったが、園内にある神社は好きだと思った。奥まった暗い室内にある金と、左右の開いた扉。神社や寺は、この奥行きの不気味さとその手前の風通りのつくりにある気がする。


待ち合わせの時間になったので空港に戻る。午後の飛行機で来た父と会い、従兄弟の迎えで山の中にある祖父の家に行った。庭では犬が飛び回り、作業場では栗の選別が行われている。昨日は市場が休みだったので、2日間合わせて200キロ?最近は、ケーキ用などで国産の栗は1キロ700円で売れるらしい。


色々な人に何となく挨拶をした後、父と叔母と一緒に、叔父が入院している病院に行った。少し離れた場所にあるカラフルで単調な精神科の病院。


アルコール依存症だという叔父は黒目が少し小さくなっていて、しきりに金のことを心配していた。自分は病気じゃないと言い張る。会話のようで会話じゃない一方的なやりとり。


夜は95歳になる祖父の長寿祝いで、従兄弟やその子供たちと一緒に酒を飲んだ。日に焼けた高校生の男の子は、昭和のような生き方をしていた。1歳の赤ちゃんの横に寝そべった叔母との会話、いくら飲んでもずっと気分が良いままだった。






2023/9/14


7時30分に起き、急いで朝ごはんを食べて、8時から親戚のおばさんと一緒に軽トラで栗拾いに行った。少し知っている山道を進み、野生の柿の木のある畑で栗を拾った。

両手には薄い布の手袋とゴムの分厚い手袋をして、落ちている鋭い棘を剥き、中の実だけをカゴに入れる。拾う度に何度でも、あの奇妙な棘の中から艶のある実が出てくることにびっくりした。


殻はある程度山にして置いておき、何度も同じものを見ないようにする。それでも、その上に新しい栗が落ちていることが多く、何度か同じやつをひっくり返してしまった。


1時間ほど経つと、良い栗が入っている殻か、虫が食っている栗の殻か何となく判別がつくようになってくる。大体拾い終わると、柿の木からひとつ熟れているものを取って食べた。種はそのまま地面に吐き出す。山の、取って食べて捨てる単純さが好き。


その後、近くの別の畑へ2回移動した。11時30分頃、雨が降り出したので家に帰る。昼ごはんを食べて、父親のビールに付き合うと眠くなったので、座敷で眠った。この家は広く薄暗いので、昼寝にとても良い。


外では、栗の選別作業をする音が聞こえたが体は動かず、18時くらいまでそのまま横たわっていた。




2023/9/15


昨日に引き続き、朝の8時から栗拾いをする。慣れない体勢の作業で少し強張った体を感じながら、何百個もある栗を拾ってカゴに入れた。もう飽きたと思っても、拾っている視界に新しい栗があるのでずっと拾えてしまう。


昨日よりも作業に対して新鮮な感覚がなくなっているような気がしたが、畑に差し込む光や風はとても優しく、綺麗だった。外で体を使う仕事は、そのときの光や空気がよく見えるようになる。自分を包み込むものに対して、ゆっくり体が馴染んでいくような気がした。


昼を食べて栗の選別をした後、天草の方まで釣りに連れて行ってもらった。沿岸には潮が引いた海苔の養殖場がずっと続いている。そのずっと後ろにある長崎県の雲仙岳。霞んでいるぼやけているがとても大きい。昔の噴火では、益城の方まで火山灰が降ってきたと聞いた。


来たことがあるけどないような場所で車が止まり、海の縁に適当に座った。用意してもらった小さい釣竿をぽいっと投げて、海を見る。向こう側には大きな橋があり、こちら側には大きな丸い南国風の木があった。

従兄弟いわく、今日は満月の満ち潮らしい。自分の体と繋がっているものを意識した。


ぼうっとしていると、私の釣竿はすぐに海の底の海藻に引っ掛かって動かなくなる。なので、何度か糸を切ってしまった後は何も手にせず、海を眺めていた。


空は徐々に暮れていき、海の様子も変わっていく。白い綾が一面に見え、一気に赤く染まった後、ぼんやりとした優しい海になる。今なら落ちても平気かもしれないと言うと、誘われているみたいだね、と父が言った。

釣りをする人たちの時間感覚が好きだと思ったが、真っ暗になっても彼らは釣りをしていた。疲れて、近くにあるベンチに寝転ぶ。何の音も匂いもしなかった。帰り道にラーメンを食べて、風呂に入って横になった。暑苦しくてあまり眠れない。





2023/9/16


爺さんに、いい加減起きろと言われて起きた。7時20分、仏間から追い出されると同時に掠れた声の読経が聞こえる。父は犬の散歩に行き、叔母はどこかへ行った。


身支度をして、たくさんの洗濯物から自分のものを引っ張り出すために1つずつ畳んでいると、親戚のおばさんから弁当をもらった。移動の間に食べて。台所にいる祖父から、朝飯を食えと急かされる。


みんなは栗拾いに行き、祖父は犬の散歩に行くと言うので別れの握手をした。犬は2回目の散歩。10時頃、叔母さんにバスの乗り場まで送ってもらった。車内での2人きり。普段は自分の周りに親戚がいないので、妙に距離感を探りながら会話をする。合っているのか分からないトーンや内容。


交通量が多いところで降ろされたのであっさりと別れ、すぐ後ろにいた博多行きのバスに乗った。3連休の初日なので人がたくさんいる。音楽を聞いたり、眠ったりしているとあっという間に博多に着いた。


コインロッカーはどこもいっぱいで、重いリュックを背負いながら都会を歩く。薄い作業服しか持っていなかったので、街の少し外れの古着屋で服を買った。店員さんは同い年の熊本出身の人だったので、適当な会話をする。きっともう会いませんね、みたいな別れをした。


喫茶店で適当に時間を潰し、夕方の新幹線に乗った。少し古びた車内、こだま。席に座ってすぐにお弁当を開けると、梅おにぎりがふたつと天ぷら、野菜の肉巻き、ナポリタン、卵焼きが入っていてびっくりした。


全部手作りの味がする。先月から毎朝栗拾いをしている体がつくった料理、本当にすごいと思った。何か騙されたような気持ちになりながら、ぼうっと食べ物を口に運んだ。通り過ぎる田畑や水田が今、ここと確かに繋がっている。



初めて見た山口県。新山口、山がぼこぼこと見たことない形をしていた。そんなに高くなさそうだが、そこだけはっきりと形があるので高く目立って見える。


トンネルを抜けて徳山。すごく眩しい17時の太陽と急な海、線路を挟んで左側が斜面沿いの住宅地で、右側には大きな工場や丸いタンクがたくさん並んでいた。細いパイプが垂直に並び、その一部が燃えているのが好き。

 

広島に着くと、丁度カープと阪神の試合が終わったのか、カープグッズを身につけた人々がドワっと駅に流れ込んでいた。赤い老若男女の熱気に、広島の息吹を感じる。駅を出ても、赤く埋め尽くされた横断歩道に路面電車、下を向くとカープ坊や柄のマンホール。空は澄んで、日が暮れかかっていた。




2023/9/17

6時までに目が覚め、音楽を聞いてぼうっとする。ベランダから、道路を歩くおじさんが痰を吐くのを見た。7時15分。最近、携帯で写真を撮ってXに載せている。どうなのかは分からないが、とりあえず続けている。

朝の広島、広い道路に路面電車が走り、大きな街路樹が揺れていた。この土地が好きかもしれない。戦後の街づくりを軽く調べてみると、市民と外国人から多くの復興構想が提起されたとあり、その進め方のバランスが良かったのだろうと思った。

この地は、歩く度に地面の下にある様々な出来事を思い出す。どこにいても1人ではないような気がして、何かが纏わりついてくる気がした。それでも、人々の熱気や街の豊かさがそれを良いものに変えている。層とか地層を感じる街。

疲れてドトールで適当に過ごした後、何か食べようと思って歩き、グリーンオアシスという喫茶店に入った。スーパー銭湯で流れているような音楽とその中にある食堂みたいな雰囲気。すごく酒を飲みたくなる。


おろし唐揚げ定食を頼むとすぐに運ばれてきた。あまり噛まず詰め込むように食べて、自分が疲れていることに気付く。働いている人はみんな歳をとった強そうな女性、その中に1人だけ新人の若い女の子がいた。すごく頑張ってる、可愛がられてほしい。


繁華街に入ると、電柱に付きすぎなくらい電線が伸びて雑多としていた。たくさんの水商売の店、その勢いが復興とか広島カープとかそういう広島の熱みたいなものと繋がっているような気がする。綺麗な街並みのすぐ裏路地。ここで働いている人はきっと今眠っている。



広島から岡山へ移動する。JR山陽本線で3時間、途中の三原駅で30分の待ち時間に外へ出てみると、去年はここで1時間以上待ったことを思い出した。そのときは城の跡と植物の多い喫茶店に行って2回目のモーニングを食べた。


人が多くて何となく気怠い電車。岡山あたりに来ると、少し四国の空気の色に似ている気がした。黄色っぽくて少し霞んでいる。


半年以上振りに会った友人は、坊主になって茶色のカツラを被っていた。駅前の馬鹿みたいな噴水の前で会い、西口の商店街を歩いた。昔からある寂れた店と、店主の趣味でやっている店がぽつぽつと連なっている。ここの賃貸は安いからみんなお金を儲ける気がないのだと友人は言った。


アート系の本屋に入って軽く挨拶をすると、すぐにお金の話をされて少し嫌な気分になる。宿に荷物を置き、東口の適当な居酒屋に入ると、食べ物が全く来なかった。ホールには店員が何人もいるが、みんな飲み物しか運んでいない。1時間ほど経って運ばれてきた食べ物は、固くなるほど焼かれていた。


2軒目は薄暗いバーに行き、煙草を吸いながら彼女の悩みを聞いた。大学時代から燻っている悩みを今もずっと抱えている。ものをつくることを再開できたらいいね、と話した。




2023/9/18

朝起きる。白い壁が妙に明るくて、少し気が滅入った。携帯を見ると、昨日の人からサイレースを飲みまくったという通知があった。


外に出て煙草を吸いにいくと、宿の敷居内の喫煙所に近所の老人が座っており、煙草をねだられる。機嫌が悪かったので躊躇うと、ダメ?だめかい?と言われたので、最後の一本をあげた。聞いてもない何かをずっと話している。何かの水を取り替えた、とか自分のやったいいところ。この場所で何本も貰ってきたという目をしている。

電話に出ると、男の人から、彼女は40錠?飲んだから吐かせたけど、呂律は回っていないし1人で立って歩けない状態です、と言われた。それでも、あの喫茶店に12時30分とメッセージがきたので、期待せず店に行ってオムライスを食べた。デミグラスのオムライスと小皿がいくつか。


すると、また電話があり、どうしても行きたいというから俺がおぶって店に置いていく、または車で拾ってファミレスに連れていく、と言われた。よく分からないので店を出て大通りで待っていると、すれ違いで店内に友人と男と男の母親がいた。


友人は目の焦点があっておらず、普段出さない方言でとてもゆっくり話した。一目でおかしいと分かる。それでも、2人は慣れている様子で彼女を扱うので、そのことも全部がおかしかった。


少し話をした後、友人がコンタクトをし忘れたと言ったので、色々ありながらも店を出ることになった。車で薬局に行き、男の母親に支えられながら立つ友人と店員の酷いやりとりを眺める。


その後は川沿いの喫茶店に移動したが、4人で乗る車の移動がよく分からなくて、悲しいのだか面白いのだか分からなくなった。


喫茶店は男が昔働いていた店らしい。車を降りた後、一瞬だけ気を抜くと、友人は何もないところで倒れて白目を剥いた。日中の外で人が仰向けになって倒れているのはすごく怖い。背中を抱き抱えて立たせると、何事もなかったかのように歩き、話し始める。よくできた人形みたいだと思った。


友人と男と店に入り、支離滅裂に注文する友人を見て、男が異常者だな、と言う。私たちの向かい側に座る男は、背後にある大きい窓ガラスの逆光せいで顔がよく見えにくい。


ぼうっとソファに沈んで、友人と音とテンポだけの会話をした。何も覚えていない。みんな全く別のものを食べて、私は紅茶とケーキを食べた。





2023/9/19

気分が優れなかったので11時からレンタカーを借りる予約をして、瀬戸内海を見に行った。当てもなく適当に走っていると、友人の親戚が長島愛生園に昔いたことを思い出した。その場所から30分の距離だったので向かう。

長島愛生園は1930年に日本で初めてできたハンセン病医療所だ。当時はハンセン病に対する偏見や差別が酷く、1931年にすべての患者の隔離を目指した「らい予防法」が成立すると、山陰や山陽地方の患者はこの島に収容されたという。


島には橋がなく、交通は船のみで世間との関わりは完全に区切られていた。1949年特効薬が普及し治癒できるようになったが、隔離政策は1996年の「らい予防法」廃止まで続いたため、社会復帰のできない人々はこの島で今なお生活しているという。


島に架けられた青く狭い橋を渡ると、土地の雰囲気がガラッと変わった。後で知ったことだが、この橋は1988年に完成したものだった。らい予防法廃止も橋も、全ての出来事が今ととても近いことだと思った。島内にある歴史館や収容桟橋、収容所だったという建物を見る。

いのちの初夜という小説を読んでいたので、籟を患った人間の体のことは何となく想像ができたが、この島で行われた運動会や農作業など、制限のある島の中で行われた人間の営みを知り、ごちゃごちゃとした気持ちになった。


島のくねくねとした細い道を車で走る。あまり生気のない団地や手入れのされていない畑、公衆浴場を見た。島の奥には大きな病院。


迷って海沿いの細い道に出ると、狭い砂浜に瀬戸内海の穏やかな海が揺れていた。そのときの優しい光はあまりこの世のものとは思えず、少しだけここに暮らしていた人々の面影を見たような気がした。


この島は、時間が歴史になる瞬間の景色だった。島の平均年齢は88歳、園の入所者は100人を切っている。彼らがいなくなった後の島の維持方法は今検討されているところらしいが、この場所で60年以上暮らした人々が今尚生活していることの重さや空気はすごいものがあった。人間1人の重さがずっしりと体の中に入ってくる。



その後、落ち着かない気持ちで岡山の色々な海岸に出てみるが、どれも妙に生きている人間の気配がして嫌な気分だった。20時にレンタカーを返し、流木の飛び出た紙袋を持ちながら駅前を歩く。


22時5分、岡山駅西口からバスタ新宿行きの夜行バスに乗った。途中から隣に女の人。がっちりボタンで止められたカーテンを覗くのが億劫で、外の景色を何も知らないまま眠ったり起きたりを繰り返した。



2023/9/20

休憩所の度に明るくなる車内。夜行バスの中で長文のメッセージを送り合うが、どうにもならないことをお互い分かっている。彼らだけの問題じゃなくて家族とか環境の話なのに、向き合おうとする人が少ない。不器用な人たちだけが残って、私も大して向き合えず、岡山から逃げるように帰った。


昼間、家に着く。母と一緒に昼を食べて病院に面会に行った。色々な形の人間に会って、心が落ち着かない。






2023/9/21


zineを印刷して梱包をした。大荷物を持って夜に移動。結構歩いて中華を食べた。瓶ビール1つ。






2023/9/22


栗を茹でた。熱い。午後から色々な人と会った。久しぶりの人と初めましての人。自分の集中力があるのかないのか分からなくて、とっ散らかった気分になる。土砂降りに当たりながら池尻大橋に行った。たくさんの人。ここでも全く分からず何も考えないようにしていたら、1人で来てすごいね、落ち着いているねと言われた。活発な人々。ずっと、体から半歩ほど意識が離れている。






2023/9/23


久々の朝からの予定。起き上がって準備をして家を出たけど、ずっと眠い。明日からつくるものがたくさんある。






2023/9/24

好きなホームセンターに2、3時間いた。たくさん彷徨いて、車と店内を何度も往復する。買うものはわかるけど、店員さんとの距離感がよく分からない。頭がぼうっとすると思ったのは、朝から何も食べていないからだった。夕方、コンビニで春雨とエクレアを食べる。帰っても作業はできなかった。




2023/9/25


木を切ろうとしたら母から電話。一緒に病院に行く。黄色い顔。病院の先生が携帯を取り出して、今ご臨終です、と言った。みんなで頭を下げる。そのまますぐ、先生はビニールに入ったご飯を持ってお昼に行った。13時。ペットシーツみたいなのに頭を乗せている。

葬儀屋との日程調整。葬式って自分のスケジュールと擦り合わせて行えるのか。全部嫌になるけど、本当に嫌になっているわけではないのでひとつずつやる。

夜は来年の話をする。





2023/9/26


早朝から作業。小屋をつくった。夜からzoomで人と話した。自分のやっていることは、行動的だけど繊細でいいねと言われた。天然生活みたいな服を着ないでセクシーな服を着て作業するみたいな助言をもらった。確かにその通りだと思った。




2023/9/27

5時45分に集合して埼玉の古物の市場に連れて行ってもらった。寝起きの考えがこんがらがっている体でも、助手席に座ってしまえば案外すらすら話せてびっくりした。8時から競が始まり、11時くらいまでその様子を見ていた。知らない人々、聞いたことのないテンポと言葉。古物商の感じが何となく分かったような気がした。今のところ、私は値段とか商売でものを見ていない。




2023/9/28


昼前から高円寺に行って、初めて会う人と知っている人たちと話した。知っている人が初めての人と話しているのを見ると、知っている人も知らない人に見える。そこから歩いて稽古場に行き、21時過ぎまでその場にいた。場所にいることを強く感じる。




2023/9/29

午後から中央林間で話をした。良いのか悪いのかよく分からない。やることはあるのでやれば良いと思った。



2023/9/30

6時くらいに起きて荷物をまとめた。10時30分に斎場に行き、初めて納棺式の場に立ち合った。女性の納棺士は、すごい手捌きで叔父の服を着替えさせた。ぼうっと見ていると、普通にリラックスして会話して大丈夫ですよと言われた。ドライアイスで冷やされた手足。4年近く歩いていない足の指は、グッと曲がって黒ずんでいた。考えすぎてしまうとおかしくなりそうだったので考えすぎないようにする。代わりに誰かが泣いていた。ビールを飲んだ頭。向日葵、百合、竜胆、カーネーション、トルコ桔梗。

夜は、さっさとたくさん食べて寝た。









< 前の月         次の月 >



bottom of page