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2023年3月




2023/3/1 なにも


自分のために何かすることが増えてきた。本当にやりたいことかも分からないこと。大して自分のために動くことができないので、猫とか飼ったらバランスが取れるんだろうなと思った。


猫を飼う決心をすれば、自分の行動に対してきちんと責任を持てるようになる気がする。今は、自分を人に説明するような感じで貪欲に生きられない。


けど、猫を飼うことは祖母がもうこの家に帰ってこないと決めつけているようで、何も決められなかった。今日の夕方、病院へ面会に行く。



昼過ぎ、野菜を買いたくなって道の駅に行く。葉玉ねぎ、にんじん、トマト、伊予柑、小松菜、ブロッコリーを買った。あと、黄色いフリージアとまだ蕾の花。


そうして帰ってくると17時頃になったので、母と病院に行った。1人ずつ3階の病室に行って個室に入ると、がっちりとした酸素マスクをつけた祖母がベッドの上にいた。


1ヶ月ぶりに見た顔は痩けて、目を大きく開いていた。意識はあるようで、お雛様だね、とか病院食がまずいとか入れ歯のない口でモニョモニョ言っている。


笑顔にならなくちゃいけないのに何故かずっと涙が出て、自分は何も覚悟がないし考えられないんだと思った。満たされつつある現状を全てひっくり返して、ただ猫を愛でるだけの生活をしたい。


けど、そんな決心も、この現状で猫を飼う勇気も持てないまま、車中泊とかして自分を擦り減らながら誤魔化して生きていくのだろう。生きている人間との関わりの中で、色々なことを忘れて、たくさんのことから目を背けながら、都合良く生きてしまう。


もっと様々なものが鈍く動いていれば、丁度良かった。






2023/3/3 ラナンキュラス


着慣れた灰色のパーカーに少し汚れたズボンを履いて、コメダに行った。コメダに行けばなんでも解決する。3時間いて全部解決した。


そのままホームセンターに行って、使いそうな木材などを見る。ついでに、ミモザ2本、ラナンキュラスを3本買った。黄色い花が好き。


夕方は病院に行って、祖母の足の爪を切った。祖母の姿に見慣れてきてあまり悲しくない。






2023/3/5 車中泊


家の2階の日向で微睡みながら花を愛でていたらどうにも気分が落ち着かなくなり、今夜は車中泊をしようと思った。


昼の食器を片付け、洗濯物を取りこんで、最低限の荷物を車に乗せる。先程まで横たわっていた体が嘘みたいに動いていた。


適当に海沿いを目指して、茨城県まで3時間ほど走る。空は鈍いけど薄く光っていて、いい気持ちだった。好きな曲、歌える曲、歌えない曲を聴きながら、日曜日の混んでいるスーパー銭湯には行って、身体を洗う。


私は数日前に、車中泊をすることやこれから自分のやることを誤魔化しとか日記に書いたけど、その中にも本当があると思った。風景や時間の渦の中に、確かなものがある。そんな感じがする。

冷たい海風と不安定な車中にいると、気持ちがしっかりしてきた。やはり家は暖かすぎる。


こんな簡素な駐車場で眠っても、家の温かな布団で眠っても同じ朝が来るのは不思議だった。こんな不器用なことをしないでも、どちらでもいいような体になりたいな。






2023/3/6 眠り


眠った道の駅の近くに牛丼屋があったので、牛丼の夢を見た。朝6時30分、雨が降り寒くなって起きる。セブンでホットコーヒーを買い、朝の渋滞に巻き込まれながら好きな歌を歌ってゆっくり北上した。


福島に入った辺りで、牛丼屋があったので買って車の中で食べる。夢の中と変わらず美味しい。


少し走ると、アクアマリンふくしまを通った。工場地帯を抜けた先にある水族館で、昔家族と来て好きになった。けど、私は水族館よりも少し鬱蒼とした工場地帯が好きなのかもしれない。


周囲には大きなパイプや分からないものがたくさん積まれていて、大きな車がコロコロとたくさん動いている。ここで働いてる人たちのことを無責任に少し好きになった。



雨が止むと、分厚い雲が徐々に透けるように晴れていった。海沿いの街は暖かい。道の駅に寄って、数年前に食べて美味しかったトマトのソフトクリームを食べた。相変わらずの味がして、その嬉しさのまま近くの灯台の下まで行って、少し眠った。


車外では、観光に来たであろう老人たちの訛った会話がぼんやりと聞こえる。太陽は暖かくて、車の中に熱を集めていた。


起きて、近くの海水浴所に降りる。犬が何匹も散歩しているのを遠くに見ながら、足元の木々を拾った。この辺りはおそらく震災の影響を受けているが、全然嫌な気はせず人々に愛されている感じがした。



その後、ファミリーマートの駐車場で少し眠って、大熊町や双葉町の帰宅困難区域が含まれる辺りを走った。これまで微かだった震災の跡が、もっと目に見えてわかるようになってくる。


全く知らない場所なのにどうしてこんな気持ちになるのか分からず、ここに住んでいた人たちの心境なんて到底想像できないと思った。


道路に面した家や店は、工場にあるような大きなバリケードで封鎖され、その周りに枯れた蔦のような植物たちがわんさか蠢いている。


街は、人がいないということを分かりやすく訴え、普段の家や道は人々の細かな積み重ねで成り立っているのだと改めて感じた。そうしたものが嫌になって家を出てしまうけど、それに支えられている。


復興というが、まだまだ街は異様で、車は工事関係者のものや大型作業車ばかりな上に、見える範囲で開いている店は大型スーパーが一軒とたくさんのコンビニ。建物は工事の事務所や出稼ぎに来た人々が泊まる宿泊所がほとんどで、娯楽や活気なんてものはない。


また、人々はどこか廃れた感じのするおじさんで、皆んな宿からコンビニまでを歩いていた。


12年。道は大分解放されて防波堤の整備も進んでいるが、街は工事をしているところだらけだった。荒れ果てた家屋は取り壊せないまま、そこにある。



前にも行ったことのある港に出て、のっぺりと綺麗な防波堤の上に乗った。すぐ側の区画された土地には、小さな松が植えられている。


砂浜に降りて、陸の端にある福島原子力発電所を見た。強い波を繰り返す濁った海と、人影のない砂浜。


端の方に木々が集まっていたので覗いてみると、東日本大震災及び原子力発電所殉職者遺物と書いた細長い札と共に、誰か集めたであろうたくさんの流木や廃材が積み重なっていた。


じわじわと身体中に衝撃が走り、これらの白い木々が誰かの骨や肉に見えた。濡れたたくさんの貝殻も、誰かの臓器や爪のよう。


私は何も拾えないまま砂浜を歩き、大きな石が円を描くように置かれた中心に、焚き火の跡があるのを見つけた。もしかしたら、毎年住んでいた人々が集まって、先ほどの木々で火を囲むのだろうか。


何故かそうした光景を思うとどこか救われたような気がして、黙祷も何もできなまま車に戻った。



帰りは山中の町を通って、道の駅の温泉に入って、5時間ほど運転をした。眼鏡で夜の道はあまり見えなかったが、気が楽だった。家でうだうだ悩んでいるよりも、こうして景色が変わって動いている方が心境に合っている。


また、ポートフォリオとかコンペの応募で、自分を簡潔に説明する際に捨ててしまうたくさんのことが苦しかったのだと気付いた。福島に行けてよかった。






2023/3/7 誕生日


祖母の転院の手続きで、病院の椅子が一個しかないテーブル席に座っていると、老人がそのテーブルを使って軽い荷物の整理をし始めた。少し迷った後、座りますか?と聞いたが、その声は届かず、こちらを一度も見ないまま、ヨォシと言ってた去っていった。なんかいい。

母が手続きをしているのを待っている車中で日記を更新した。暑い。先ほどコンビニで買ったカフェラテは、ミルクを途中で補充してもらったので、コーヒーの部分が2倍濃い。


車の中は、濃いコーヒーの匂い。ちょっとチョコレートぽい。今日は父の誕生日。


昼は近くの店で量の多いパスタを食べたせいで、家で昼寝をした。



夕方、花束と食材を買いに父の働いてるショッピンモールに行った。父のところに寄るとたまたま休憩時間だったので、フードコートのテラス席で一緒に珈琲を飲んだ。空には黄色い満月が浮かんでいる。


黄色と白、青い花、葉っぱを選んで包んでもらった。

家に帰って、バジルと柑橘の2種類のカルパッチョ、玉ねぎのマリネ、ロールキャベツのトマト煮込み、エビと菜の花のアヒージョ、ガトーショコラをつくる。久しぶりにきちんと料理をした。


暖かいストーブ、ねこ、犬、シャンパン、馬鹿みたいな蝋燭、甘いケーキ。





2023/3/8 さかな


仕事で出掛けたのと、天気につられて東京に行った。みんな眠っているみたいで私も眠る。夕方、東京駅に着いて友人の展示を見た。名前を書く紙に知り合いの名前を見つけ、少し重なる感じがする。

生ぬるい空気に満たされた街で音楽を聴きながら歩くと、まるで泳いでいるみたいだった。もう少し暑くなったら、水に入りたい。


上野の喫茶店で珈琲を飲んだ。生きる感覚が手元に戻ってきた感じ。本当は西荻窪とか阿佐ヶ谷の喫茶店に行きたいけど、中央線だるい。






2023/3/12 三日月ロック


最近は、畳の部屋にブルーシートをひいて木工作業をしている。家とホームセンターを往復。コンタクトが切れたのでずっと眼鏡。


車で移動しているとき、暖かすぎて事故りそうになるので歌って意識を保っている。


スピッツは、ちゃんと歌詞を聞いてみるとすごく地面の感覚があって好き。春の陽気さに浮かれきれない感じと合っている。三日月ロックその3、点と点、みそか、インディゴ地平線とか。






2023/3/16 春の匂い


火曜日、仕事で神奈川に車で行った。毎回、首都高に乗るときの料金所で大型車とぶつかりそうになる。なので、車を降りていつもの部屋に行ったら、緊張が緩んでうまく話せなかった。


来週の展示のために作った什器などを部屋に入れてみたら、案外様になって驚いた。数日前の自分と今の自分は違う人みたいだ。


その日のうちに帰ってきて、夜コンビニで見かけた山菜の大きいパック(800円)と冷凍うどんを買った。


木工作業をしているときは、数字と手触り、作業手順のことしか考えなくていいので、不思議な充実感が得られる。また、設計している自分、ホームセンターで買い物をする自分、組み立て作業をしている自分は数日ずれているように少し違う自分なので、結構楽しい。


しかし、これをずっと続けているとなんとなく乖離しすぎて、他のことが朧げになり始めるので納期直前でガッとやってしまいたい。



何か思い出があるわけではないけど、今日の夕方の気温と空の色は心がざわついた。暖かい中に冷たくなる空気があって、夏の日の長さを思い出す。


あと、春の匂い。夜は匂いが地上に止まって、どんどん街を侵食している。植物の芽吹くような匂いが山から降りてきていた。


それが何となく黄色くて丸いような感じなので、今の季節は暗闇でもちょっと優しい。何かが側にいるような気がする。


また、自分は暇だと思っていたけど、本当はやるべきことをあと伸ばしにしていただけだった。何で今日気づいたのだろう。






2023/3/20 し


下北沢の2階にある喫茶店から歩く人たちを見ていた。半分くらいの人が春休みの若者風で、半分くらいがこの道を知っているように歩いている。この窓は多分、外から見ると暗く反射しているので、誰とも目が合わない。


店内は、店主の老人と私だけだった。老人は手が震え、歩くのも少し不安定だったが、恐らく自分の手の震え加減を知っている。


コーヒーの入ったカップとソーサーが机に置かれるとき、ぐわんぐわんと水面が揺れた。溢れそうだなあと思って見ているけど溢れない。前は溢れていた。店内はいつか行った蕎麦屋みたいな匂いがした。角の店の庇に溜まった水が揺れている。


そのあと、目の前の古着屋に入って、店員さんと談笑しながらワンピースを買った。彼女は私がこの近くに住んでいるように話を進めたので、話を合わせた。



電車かどこか街中で桜が少し見えてびっくりした。栃木はまだ咲いていない。100キロほどでも東京の方が暖かい。人が多いからそう見えるっていうのもある気がするけど、なんとなく暖かい。


駅のホームで、数年我慢すれば出世して安泰するからと早口で男が女に話していた。知らない単語を使う人と口達者な人は苦手だなと思っていると、目の前を歩いていた人がお巡りさんに肩を叩かれて、職質をされ始めた。全く怪しい感じには見えなかった。男は素直に職質を受けている。


17時、少し寒いけどまだ暖かい。河川敷が好き。大きくて広い河川が好き。渓流よりも平らな川がいい。


お腹減った。朝、小さな黒胡麻のおはぎを食べただけだ。

エンヤーエンヤーコーエン、ワンゲーフーィ、エンガーフー。隣の外国人の声は音として聞こえて、言葉として捉えられない。ふにゃふにゃしてる。なんか。






2023/3/24 空中


とりあえずのことが昨日終わった。北海道に行ってから水の中に沈んでいたような頭が、今日の朝からははっきりと起きている。1年前にも感じた展示や作品への感覚を取り戻せる気がする。


改めて、大学というのは壮大な磁場なのだと思った。試験に合格して何となく通っていたけど、あの場所から刺激を受けたものはたくさんあった。自分の中に生まれた小さなエネルギーも、場の力で簡単に増大できていたのだと思う。


今、誰かが見てくれるわけじゃない環境、しかも家を作業場にしている環境は、自分の小さなエネルギーをたくさん見逃してしまう。


なので、昨日、たくさんの現役武蔵美生と教授や先生に私の拙い展示を見てもらって、バットで殴られたような感じがした。自分の役割、やりたいこと、やらなくちゃいけないことが分かる。


昨日まであった肩の凝りや首の重さがすっかり飛んでいた。1人だと何もできない。そんな当たり前のことをすぐに忘れてしまうから、忘れないように気をつけたい。






2023/3/25 ピタカ


ピカタって作ったことないけど、いい名前。星っぽい。スピカ?


冷凍うどんを料理と呼ばないなら、今日の夜久しぶりに料理をした。あと、最近お菓子ばかり食べていた気がする。でも、お菓子はいくら食べてもお腹いっぱいにならないからずっと虚しかった。


夜はパスタを茹でながら、にんにくと玉ねぎとしらすを炒めてホールのトマト缶で煮た。二つのコンロから火が出て、鍋とフライパンからぐつぐつと湯気が出ているのはいい眺めだった。


鉄のフライパンの底から伝わる熱が、トマトの液体を少しずつ空気へ飛ばしている。その音が思ったよりも優しくて、この音は遠いどこかから鳴っているのかもしれないと思った。もっと奥深い地球のどこか。


パスタは胡椒を入れ過ぎたけど美味しかった。今日は、何十年分?みたいなキッチンの排水管に溜まったヘドロを取って、部屋を片付けて、洗濯を2回して、昼寝をして、珈琲を2杯飲んだ。


そういえば、昨日実家に行ったとき、3月7日の父の誕生日にあげた花の一部がまだ綺麗に咲いていて何か少し泣きそうになった。母が毎日水を取り替えて、茎の先端部分をたまに切っているらしい。


すごい。自分の知らないところで、何かが少しずつ維持されていることを知るのは嬉しい。生きている人間に会った気分だ。






2023/3/26 パエリア


雨の音を聞いて本を読んでいたら眠っていた。昼は3ヶ月ぶりくらいに米を炊いて、祖母が買っていた冷凍の唐揚げにネギを刻んだものを乗せて食べた。


仏さんの小さな器にも2つ、米をよそった。何故か米が炊けたことが嬉しかった。入院した祖母が買っていたものを少しずつ消費している。


夕方は実家でクッキーの生地の仕込みと、パエリア、タンドリーチキン、サラダ、ラディッシュを焼いたやつをつくった。お菓子も少し良い料理も、何でもない日にできたらいい。


パエリアは初めてスパイスを5種類くらい使って炊いたが、とても美味しかった。元気な味がする。食後、クッキーを焼いた。両親が寝静まったあと、暖炉の側で冷めたクッキーにアイシングをする。


甘いものを作っている間は、何も暗いことを考えずに済むから良かった。ぼんやりと良さそうなことだけを考えて、布団に横になると、犬が顔の近くで寝そべった。短い毛が顔に当たる。あまり臭くない。






2023/3/27 晴れ


連日の雨が止んだ。山を見ると、薄い緑色と山桜の白い花が見える。春の山の色だ。


それに比べて濃い春の匂いはどんどん薄まってきたので、あれは花や芽が開く直前の燻る匂いだったのかと思った。大きく膨らんだ蕾が放つ気配のようなもの。


花が開くと共にどこかへいった。なんとなく上の方とか北の方にいっているような気がする。






2023/3/28 ほん


友人に勧められた本を数ヶ月越しに読んだ。


2人の姉妹を育てた女の話。女はショッピングセンターの喪服コーナーで働いており、その勤務時間や休憩時間に人と話して、その隙間から自分と子供の過去を少しずつ思い出していた。

その本を読んだ後、私は知らない人、そんなに親しくない人と最近接していないと気付いた。ホームセンターでバイトをしたい。月数回だけ雇ってくれるホームセンターの品出しとかしたい。それで猫を飼いたい。


とても普通のことなのに、自分のやるべきことと反しているのが分かる。やりたいことをやりたくてこうやって生きているはずなのに不思議だ。ホームセンターも猫も、そんなに強くは願っていないのだと思う。


あと、すぐ人の影響を受けることにも気付いた。色々な臓器のことを忘れる。お腹が減ったときとか、体調が悪いときに体の細かなことを思い出す。


それと、人と話したときに相手が反応しているものが私なのだと知る。だからすぐに忘れる。自分がどんなものだったかという認識が長続きしない。











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