2021/1/4
家の隙間
風が吹く
浮いている壁に、指が入ってしまった
クレーン車、地下20m
ペトペトの切り傷
刺さったトゲが風呂に浮いていた
寝転んで煎餅を食べた
噛み切れない小石みたい
手が透き通ってきた
寝るしかない
切りすぎた爪の間が冷える
ある日、突然
街が発光した
どこを見ても眩しい
2021/1/11 中央線
いつも、電車の窓から見える大きな鉄塔がどこまで続いているのか眺めている
眺めていても、いつも同じところまでしか見えない
白っぽい街を電車が走る
仕事に向かう人がたくさん乗っている
風のない灯りの元、みんなが駅に着くことを待っている
軽く目を瞑る
揺れている振動が髪の毛まで伝わって、少し眠くなった
電車の中に、朝が通り抜けている
冬がだんだん近くなる
枯れた木々が揺れていた
冷たい光に囁かれる
そっと手を伸ばした
光の遊びに、景色は揺れている
曇りの日は、全てが鈍い色を灯している
たまに、くっきりと形の見えるものがあって嬉しくなった
2021/1/20 ピザ
多分6時くらいに目が覚めて、7時30分に起き上がった。まだ暖かい布団たちを袋に詰めてコインランドリーに向かう。歩きながら、昨日の夜にピザのことを思って寝たことを思い出した。
布団を洗濯機に入れた後、コンビニに行った。今日、私は何をするだろう。布団を干して、ピザを食べることは確定している。
家に着くと、窓から差し込む光が部屋中に満ち、エアコンの暖かい空気が溜まっていた。お湯を沸かして、珈琲を淹れる。
その後、ピザを解凍しながら、知床のじゃがいも農家さんに貰った芋を細く切った。まだ熱していない油にぼとぼと芋を入れて、低温で20分ほど揚げた。ゆとりのある食事と、食べたいものを自分で調達したという達成感。
そんなこんなで9時を回る頃には、1日を満足していた。なので、その後何をしたかあまり覚えていない。今思うと、1日の出来事が2日分のことだったのはないかという気がしてくる。
Aに連絡をとって、20時に家に行く約束をする。国分寺に着いた頃には、気持ちは料理長だったので駅前で食材を買った。久しぶりにカルディに行くと、楽しくて驚いた。
私は、長らく最低限の買い物しかしていなかったと気付く。卒制のために、ここ1、2ヶ月ほどはコンビニ、西友、ホームセンター、東急ハンズにしか行ってなかったかもしれない。
適当に買い物をし終えて、Aの家に着いた。部屋は前よりも物が増え、歩けるスペースが限られていた。彼女は、卒制の後も卒制の体力感覚が忘れられなくて、疲れるために外出しちゃうんだよ、と言った。
適当に食べ物を拵えて、ワインを1本と半分空けたところで寝ていた。夜中の2時30分に目が覚めてテレビを見ると、NHKが北アルプスの植物をズームしているだけの映像を流している。可笑しくて少し笑った。
2022/1/22 家
久しぶりに床で眠った。こたつとホットカーペットに挟まれながら眠るのは、体温調整が難しい。
何度も夢を見たような見ていないような、酒が少し体に残っている感覚だったが、シャワーを浴びてベランダに出たら、今日がいい日になる感じがした。晴れている。煙草に火をつけた。
この部屋の向かいのアパートは、いつも生活感がない。その隣の3階建てのビルでは、男が会議室の長机を拭いている。ベランダには、いつから干したままなのか分からないタオルやパジャマがあった。取り込むことを催促しようとしたが、綺麗だったのでそのままにした。
Aと別れて、国分寺の古本屋に行った。本を3冊買う。その後、1ヶ月間の免停だった免許証を受け取るため、武蔵小金井駅に行った。
小腹が空いたのでファミレスに入ると、案内された隣には高齢の婦人が1人座っていた。私は、スープと小さなパン、ブロッコリーの煮物を頼んだ。
コーヒーを取ってきて、先ほどの古本屋で買った本を読む。1ページ目から、徐々に体が空気と馴染み、内臓を満たす体液がゆらゆらと光ってくる。
横目で婦人を見る。すると、小さなデキャンタの赤ワインにエビのフリッター、クラムチャウダー、青エンドウ豆のサラダをゆっくり口に入れていた。
それからバスに乗って免許センターの4階へ進み、ほんの数分で免許証が返却される。返却時、普段使われていないような窓口のカーテンが、私のために開かれていた。
何となく、私の好きな場所は老人とおじさんが多い。釣り堀、名曲喫茶、ファミレス、古本屋、ギトギトのラーメン屋、公園。最近の若い子は何して遊ぶの?と聞かれても、あんまり知らない。
2021/1/25 エビフライと瓶ビール
父と2人で草津温泉に行った。電車で2時間少しとバスで30分。母は仕事だった。車内からは赤城山がよく見えた。その奥には連山が薄らと見える。麓に広がる町は、ちっぽけだったが力強く感じた。電車は赤城山を回るように少し走ると、山は遠くに離れ始めた。
吾妻線に乗り換える。寒かったのでホットココアを買った。日の当たるベンチに少し座っていると、電車が来て、それに乗る。父との会話はあまりなく、私たちは自分の本を読んだり、父は缶ビールを飲んだりしていた。疲れたら、目を瞑って眠った。
父がいると、私はどうしても気が抜けるらしく、周囲に対しての興味が極端に無くなる。どのような人が車内にいるか、どんな街を電車が走っているか、後どれくらいで目的地に着くのかということさえ、どうでもいい。
お金も風景をみる係も、電車の乗り換える係も父が担っていた。なので、私は何もしなくてよかった。そんな感じで草津温泉のバスターミナルに着いた。
少し歩いた場所にある定食屋に父を連れて行く。バスターミナルから登山靴で雪道を歩いた。ふと振り向くと、父は数十メートル後ろでちょこちょこ歩いている。靴が滑りやすいのか、滑ることを極度に恐れている。
あまりパッとしない定食屋に入った。親子らしい2人が切り盛りをしていた。前に行った、どこかの温泉地の定食屋に似ている。
座敷に座り、私はエビフライ定食、父は味噌カツ丼と瓶ビールを頼んだ。少しして、蓋のあいた瓶ビールとグラスが2つ、机に置かれる。父に注いでもらったビールをちびちび飲みながら、本を読んだ。
父の故郷である熊本の家ではビールがお茶のように扱われるので、私は少しそれに慣れた。瓶ビールを飲みながらエビフライを待っていると、昔読んだSFを思い出した。会話らしい会話はせず、父が瓶ビールの2本目を飲みきって、店を出た。
雪で遊びながら坂を下り、すぐ側の温泉に行った。父と会話が噛み合わず、買わなくてもよかったタオルを1枚買う。そのあと時間を決めていなかったのに、ほとんど同時に風呂から出てきたので、体の感覚が同じなのかもしれないなと思った。
30分ほど歩いて、賽の河原に向かう。途中で小さな氷柱を取ってもらった。15時頃、よく伸びた白い陽が、葉を落とした木々の隙間から湯に落ちていた。湯気がくるくると回りながら、宙へ消えていく。
16時頃、バスに乗って帰路に着く。このバスでの眠りが1番気持ち良かった気がする。その後は、行きと同じように本を読んだり、眠って、19時に地元の駅に着いた。
2021/1/26 川
今日は8時に起きて、冷たい焼き芋を1本食べていたら10時になった。ゆっくりと河原まで歩く。曇っていたが、徐々に太陽がみえるようになる。気温が上がった。
川には、白っぽい草が見渡す限り生えていた。私はバリバリっと音を立て、草木を分けながら水辺まで歩いた。この辺りはあまり人が寄り付かないので、歩けるような場所はあまりない。少しすると、獣道をいくつか見つけた。川まで続いている道と、ずっと遠くの森まで続いている道、いろいろな道がある。
糞を避けながら川のすぐ側まで辿り着くと、橋を走る車の音が絶えず聞こえた。この場所から見る川が好きだと思う。
川の反対側を見ると、ショベルカーが川の間に入って、水の流れを整備していた。水幅を狭くしようとしているらしい。この街は、河原一帯を綺麗にしようとしている。
何となくだが、獣道を見つけられる人と見つけられない人がいるような気がする。父と私は見つけられて、母は見つけられない。山を歩くときに分かる。分かる人は、難なく山を進んでいくが、分からない人は自ら歩きにくいところへ進んでいく。
ちなみに、父と私より母の方が格段に視力が良い。なので、感覚と経験によるものかも知れない。草の倒れ方や木の間の感覚で、肩幅程度の道が見える。
チェーン店の喫茶店に行って、パソコンをカチカチしていたら3時間ほど経過していた。夕方、また川に寄って本を読んだ。太陽は昼間よりも勢いを失っていて丁度いい。
母の作ったハンバーグを食べた。その夜、今日までの支払いだったアパートの電気代の支払書を鞄から見つけた。 2021/1/28 充電器
1週間ぶりに、1人暮らしの部屋に帰ってきた。東急ハンズで適当に買ったインドのお香の匂いが部屋に染み付いていて、何処だここは、となる。
セブンで買ったアイスコーヒーと持っていたマフィンを2つ食べた。荷物を整理していると、パソコンの充電器を実家に忘れてきたことに気づく。今日中に充電器があった方が安心するので、秋葉原の電気屋に偽物の充電器を買いに行くことにした。
と、思いついてから2時間ほどダラダラして、家を出た。新しく買ったマフラーが嬉しい。
数ヶ月間この街にいた時よりも、駅までの道が楽しく感じた。1週間離れただけで、街が馴染み深いものになっている。何度も繰り返したら、もっと街と仲良くなれるのだろうか。
秋葉原に着いて、Googleマップの示す店に行く。見た目はよくある中古パソコンショップで、店員らしい中華系とインド系の男性が2人いた。
そのどちらにも聞こえるように、mac airの充電器ありますか?と聞くと、中華系の男性はすぐにもう1人に目をやった。インド系の男性に改めて聞くと、何アンペア?と言われたので、何でもいいです、と答えた。
すると男性は、あっ、何でもいいの、と少し陽気そうに、新しく店に入ってきたインド系の大柄な男性と会話しながら、カウンター越しの雑多とした段ボールの中から充電器らしいものを取り出した。
はい、これね、と言う男性の左の薬指だけ1センチほど伸びている。2000円。正規品は8000円ほどする。道路に出て、街の人々と同じように歩いていると、秋葉原楽しい!と思った。
その後、何の理由があってかは覚えていないが、新宿に向かった。右隣の髪の長い女性が、男性と会話をしながら枝毛を割いて私の足元に捨てている。よく行く東南口の喫茶店に行った。そこで罪と罰を大体読み終えて、家に帰った。
2021/1/30 ささくれ
どこかの駅で、寒すぎて頭の毛穴が少し縮むのを感じた。左手の薬指にあった血豆が1個消えている。
この日か分からないけど、新宿駅から代々木駅まで移動してフレッシュネスバーガーに入った。外見が、遊園地のあまり目立たないレストランみたいだった。
暖かすぎない空調、暗い茶色で塗られた机や椅子、全てそのときの心境にぴったりで、頼んだホットドックとポテトとホットコーヒーも体に合っていた。
そうやって時間が過ぎていくと、この店の空気や光も澱んできたように感じて逃げるように店を出た。
外は、雪が降った日ように寒い。満たされない何かを、食欲で満たそうとする。それを寒さのせいにしてマック行った。ポテトとホットチョコレートを頼む。別に美味しくなかった。
その後、新宿南口にある印刷店で店員さんと相談しながらデータを何枚も印刷してもらった。2時間30分ほど店内にいたけど、他にすることもないので良かった。
店のパソコンでデータを確認しているとき、隣の男性客が店員さんに相談していた。それを覗くと、美尻認定証、あなたはエロ仙人も認める美しい尻の持ち主です!という文字と、源氏名らしい女の子の名前が見えた。
金髪で眼鏡をしたガタイの良い男性は、風俗店の店長か何からしい。それでも、店員に対する態度はすごく下手で、早くこの印刷を終わらせたいという感じがした。自分の鬱々とした気持ちが急に晴れた気がする。
私の誠意を込めた印刷と、このしょうもない賞状の印刷が同じ場所で行われている。私がしようとしていることは緊張したり、責任や何か背負い込むようなものではないと思った。
